概略
ファスナルはアメリカのミネソタ州に本社を置く建設用ファスナーをはじめとする様々な建設用資材を製造販売する企業です。
北米・中南米・アジア・東南アジア・欧州の25か国で店舗を運営し、3200以上の拠点でサービスを提供しています。
ミネソタ州の小さな町で設立されましたが、1990年代半ばには同業で全米最大の企業となりました。
ビジネスモデル
そもそも建築用ファスナーとは
- ねじ
- 釘
- ボルト
- ナット 等
のことを指し、接合部に用いる金具のことを指します。
建築現場に必要不可欠な金具ですが、この製品の特徴は「重いわりに単価が安い」というものです。
重いので輸送費もかかりますが、単価が高くないため利益率が低くなってしまいます。
そのため、建築用ファスナーを製造するメーカーは地域ごとにドミナント戦略をとっていました。
しかしファスナルはここに商機を見出しました。
まず、ファスナルは顧客となる工場や建設現場への距離を縮めるために店舗を増やして密度を高めました。
これにより、建築用ファスナーの配達をすぐに行うことが可能になりました。
建設現場側からすればすぐに部品を配達してくれるファスナルの優先順位が高くなるのでファスナルの存在感が高まることになったのです。
また、それだけではありません。
ファスナルは顧客の施設内で「Onsite」と呼ばれる店舗を設置することにしたのです。
また、間接資材の自動販売機も設置し、顧客が必要な時にすぐに購入できる体制を整えました。
このようなビジネスモデルは競合他社が真似することが難しいため、ファスナルは場所と規模の経済性を持った企業と言えるでしょう。
各種指標
売上高・営業利益
ファスナルの売上高・営業利益・営業利益率を見ていきたいと思います。
このグラフを見てもわかるようにファスナルの売上も営業利益も順調に成長しています。
コロナ禍においても売上を伸ばしたのは不況にも強い企業という証拠でしょう。
また、営業利益率が20%というのは非常に高い数字です。
一般的に10%を超えると優良企業と判断できる一つの指標ですので20%は驚異的な数字です。
建築用ファスナーという利益率の低い製品を扱う企業がビジネスモデルの工夫によって営業利益率を高めたという事実に驚くばかりです。
EPS(1株利益)
続いてEPS(1株利益)です。
EPSは1株当たりいくら儲けているかを確認するための指標でこの数字が成長しているほど稼ぐ力を伸ばしていると判断できます。
ファスナルのEPSは毎年増加しており、順調に稼ぐ力を伸ばしているといえるでしょう。
ビジネスモデルがわかりやすいということと模倣するのが難しいということから今後も稼ぐ力を伸ばしていくことが予想できます。
今後の展望とまとめ
以上のようにファスナルは顧客と密接に関係を作り、模倣の難しいビジネスモデルを展開することで高い利益率をたたき出している企業と言えるでしょう。
ファスナルは建設現場や製造現場に近い場所に拠点を構え、自前の配送部隊によって低コスト化、密度の高い店舗網による24時間以内に配送するなど鉄板の「場所と規模の経済性」を取ってきましたが、近年はECの活発化によって優位性が維持できなくなっています。
ECでは店舗を構える必要がないことから運営コストが低くなります。
そのため、商品価格も下げることができます。
そうするとファスナルの製品を買うよりもECで購入した方が安くつくといったケースも増えてくる可能性があります。
当然ファスナルも対応を急いでいます。
ファスナルもECを展開したり、従来の店舗を閉鎖して自動販売機を増やすなどして対抗しています。
そのため、ECが主流になりつつある現在でも高い利益率とEPSの成長を成し遂げているのです。
今後も建築の需要がなくなるということはありませんし、建築用ファスナーの需要もなくなることはないと思います。
ファスナルもビジネスモデルを柔軟に変更しながら堅調に成長していくのではないでしょうか。