世界の企業研究

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信越化学工業 ~鉄壁の財務基盤と高利益率のビジネスを行う化学メーカー~

概略

信越化学工業は東京の丸の内に本社を置く大手化学メーカーです。

海外売上比率は7割を超え、19か国で生産・93拠点で販売を行うグローバル化学メーカーともいえます。

塩ビ、シリコンウエハーなど世界トップシェアを誇る製品を数多く抱え、国内化学メーカーとして最大の時価総額及び営業利益を誇ります。

財務基盤も鉄壁の数字であり、まさに日本を代表する企業のうちの一つです。

 

化学メーカー時価総額ランキング(2023/11/16)

 

ビジネスモデル

信越化学は化学メーカーとして様々な製品を開発・販売していますが、事業領域としては4つに分けられます。

  • 生活環境基盤材料
    上下水道のインフラや住宅、農業などに欠かせない「塩ビ」などを製造
  • 電子材料
    半導体の基幹材料である「シリコンウエハー」などを製造
  • 機能材料
    電子・自動車・建築・化粧品など様々な使用される「シリコーン」「セルロース誘導体」などを製造
  • 加工・商事・技術サービス
    培った加工技術やエンジニアリングで課題解決

上記の4つの領域で事業を展開し、世界トップシェアの製品も数多く抱えています。

 

https://www.shinetsu.co.jp/jp/ir/individual/about/を参照し作成

 

生活環境基盤材料

生活環境基盤材料は主に「塩ビ」「化成品」「日本酢ビ・ポバール」に分かれています。

塩ビは上下水道のパイプや窓枠、バッグや雑貨にも使用されています。

化成品とは中和剤や洗剤などの製造に使用する基礎化学品のことで、アルカリ製品や液化ガスといったものを取り扱っています。

いわゆる私たちの生活基盤に欠かせない材料と言えます。

日本酢ビ・ポバールは接着剤などに利用される酢酸ビニルやポバールを取り扱っています。

生活の基盤となり、社会を支える製品を製造開発している事業と言えますね。

https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2023/07/20231027_con_J.pdfを参照し作成

 

生活環境基盤材料の最新業績(2023年度第2四半期)は前年と比べて、売上高・営業利益ともに減少しています。

これは主に中国市場が要因です。

中国における建設や住宅投資の減少に伴い、塩ビ、化成品も減少になったということです。

 

電子材料

電子材料は主に「半導体」「マグネット」「有機材料」「新機能材料」「精密材料」に分かれています。

半導体は、半導体の基盤材料であるシリコンウエハーを主に製造しています。

シリコンウエハーは私たちの生活に欠かせないもので社会の「基盤」となる材料です。

マグネットはその名の通り、磁石を製造しており、電気自動車(EV)などのモーターに使用されています。

有機材料は主にシリコーンを製造しています。

シリコーンも生活のあらゆるところに使用されている材料で社会に欠かせません。

新機能材料は半導体の製造工程で使用するフォトレジストを製造しています。

精密材料は光ファイバーに使用される石英などを製造しています。

これらの商品群からわかることは社会の基盤になる材料ということです。

社会の成長に欠かせない半導体に絡む製品を製造している信越化学工業は今後も拡大していくのではないでしょうか。

https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2023/07/20231027_con_J.pdfを参照し作成

 

電子材料の最新業績も昨年度と比べて減少しています。

半導体は昨年需要が拡大していましたが、今年度は調整局面に入っているため減少したというのが要因です。

 

機能材料・加工商事技術サービス

機能材料はセルロースシリコーンの機能を活用した材料のことで、あらゆる産業で使用されています。

加工・商事・技術サービスはエンジニアリング事業などを行っています。

 

セグメント別売上高と営業利益

https://www.shinetsu.co.jp/wp-content/uploads/2023/07/20231027_con_J.pdf

 

セグメント別にみると、生活環境基盤材料と電子材料で80%以上を占めています。

外部環境に影響を受ける事業ですが、様々な製品群を抱えているためリスクマネジメントはできていると考えていいと思います。

 

世界トップシェア製品

塩ビ

塩ビとは「塩化ビニール樹脂」のことでプラスチックの中でも燃えにくく耐久性に優れているという特徴があります。

そのため、上下水道などの社会インフラや住宅、生活用品まで幅広く使用されています。

信越化学工業は塩ビのシェアで世界トップであり、塩ビと言えば信越化学工業という確固とした地位を築いています。

 

https://www.shinetsu.co.jp/jp/ir/individual/products01/#map-areaを参照し作成

 

シリコンウエハー

シリコンウエハーとは「半導体シリコン」のことでスマートフォンや家電、自動車などの身近なものからAI、IoTまで幅広く使用されている半導体の基板材料になるものです。

現在の生活に欠かせない通信機器に必ずと言っていいほど使用される半導体を支えるものなので非常に重要度が高いです。

信越化学工業はシリコンウエハーでも世界1位のシェアを誇り、第4の産業革命を支えているのです。

 

https://www.shinetsu.co.jp/jp/ir/individual/products02/#map-areaを参照し作成

 

その他の製品

その他にも信越化学工業は様々な製品を開発しており、半導体工場や産業用ロボットに使用されている材料や自動車や液晶テレビなど私たちの身の回りの機械などに使用されている材料を展開しています。

 

https://www.shinetsu.co.jp/jp/ir/individual/products04/#map-areaを参照し作成

 

また、シリコーン樹脂は利益率が非常に高く、今後も増益が続く可能性があります。

使用例としては1日中潤いが続くコンタクトレンズなどに使用されています。

顧客の要望に応じて様々な形や厚さ、性質を作りだせるシリコーンの製品数は樹脂やオイルなどの液体やゴムなどの個体と5000種類を超えます。

シリコーン樹脂の強さの秘密は多品種少量生産を行っていることです。

コンタクト以外でも化粧品関連の「ファンデーションを伸びやすくする素材」や自動車関連の「耐熱性が求められる部材」と用途が広いのも特徴です。

顧客のニーズに合わせた素材を共同開発するため付加価値も高く、さらに値崩れがしにくいので安定した利益を確保できるのです。

 

上記のように信越化学工業は安定した収益基盤を持ち、それぞれがバランスよく稼いでいるため化学メーカーで時価総額が1位の地位を築いているのです。

市況変動の影響を受けやすいシリコンウエハーが振るわないときでも他の事業が稼ぐため大きくダメージを受けるということが少ないです。

身の回りの様々なものに使用されており、生活に根付いている部分を抑えている信越化学工業は稼げるビジネスをしているといえるでしょう。

 

各種指標分析

売上高・営業利益

 

ここからは信越化学工業の売上高、営業利益、営業利益率を見ていきたいと思います。

まず売上は2021年に微減しましたが、その後は右上がりの成長をしています。

2021年は新型コロナウイルスの影響で塩ビの需要が減ったことで売上高が落ち込みましたがそれでも他の事業が堅調だったので微減で済んだということでしょう。

それほど他の事業で稼げる企業体質をもっています。

2022年には塩ビの需要も回復し売上高もグンと伸びています。

また、営業利益率が非常に高いことも特徴です。

一般的に製造業で10%を超えると優良企業と言われますので30%近い数字は驚異的と言えるでしょう。

 

EPS(1株利益)

https://irbank.net/E00776/results#c_6を参照し作成

 

続いてEPS(1株利益)です。

この数字が増加しているほど稼ぐ力が伸びていると判断できるため、非常に重要な指標です。

信越化学工業のEPSは21年~23年までは成長し続けていたものの24年予想では減少に転じています。

これは中国をはじめとする各国の景気が減退したことが主な要因です。

今後も中国経済の復調が遅れると信越化学工業などの化学メーカーはダメージを受ける可能性はあります。

 

自己資本比率

https://irbank.net/E00776/results#c_12

 

次は自己資本比率です。

自己資本比率は企業の財務健全性を確認するための指標で、この数字が高ければ高いほど安定している企業と言えます。

信越化学工業自己資本比率は80%を超えており、非常に高い数字です。

財務健全性に全く問題はなく、事業継続に何の不安もないと思います。

 

配当・配当性向

https://irbank.net/E00776/results#c_24を参照し作成

 

最後に配当と配当性向の推移です。

信越化学工業は30年以上減配をしておらず、累進配当銘柄です。

近年は2016年から2023年まで毎年増配していたのですが2024年は2023年と同額の100円となっています。

これは上記で述べたように景気の減退が原因です。

ただ、業績自体は成長しており、手元のキャッシュも潤沢にあります。

また、配当性向も20~30%とまだまだ配当に回せる資金があるのも事実です。

配当に回すか事業の成長に回すかは経営層の判断になりますが、今回増配しなかったことが大きくマイナスになることは全くないと考えています。

 

今後の展望とまとめ

以上のように信越化学工業は世界トップシェアの製品を数多く抱え、それぞれがバランスよく利益を生み出すため非常に稼げるビジネスを行っている企業と言えるでしょう。

製造業にとってシェアを維持するというのは非常に難しく、価格競争に巻き込まれるとシェアをアッという間に奪われる可能性もあります。

価格競争に勝つために値下げをすると今度は利益を確保するのが難しくなるのですが、信越化学工業はそれをやってのけています。

つまり安く売りつつ利益も確保しているというわけです。

これを実現するためには安く仕入れを行うなどサプライチェーンマネジメントをうまく行う必要があり、信越化学工業はこの点で優れているため今後も安定してトップシェアを守りつつ利益を出していくと考えています。

個人的に財務基盤も鉄壁で稼げるビジネスを行っている信越化学工業は日本の企業の中でもトップレベルに優れた企業だと思っていますので今後10年、20年先でも優れたビジネスを行っているのを確信しています。